ワインの香り② 「マセラシオン・カルボニック」
前回の記事(ワインの香り①)に引き続き、ワインの香りを生み出す要素について少し掘り下げてまとめたいと思います。
前記事で第2アロマという単語を紹介しました。ワインの香りの中でも醸造に由来する香りです。
今回は「マセラシオン・カルボニック」、「セミマセラシオン・カルボニック」という醸造方法にフォーカスしてみます。
目次
ワインの香りとマセラシオン・カルボニック
ワインの醸造と一言で言っても、いろいろな工程や段階があります。
「マセラシオン・カルボニック」の手法が取られると、ワインに特有の香りが現れます。
ワインの醸造工程
まずは順を追って、ワインの醸造工程を簡単に。
下記は赤ワインの醸造工程です。
収穫
除梗 (茎などを取り除く)
破砕 (ワインの果汁を出すために皮を破る)
醸し (果皮を漬け込む)
発酵
圧搾 (果皮と液体を分離)
樽orタンク熟成 (休ませてワインの安定化させる。旨みマシマシ。育成とも言う。)
瓶詰
かなり簡略化し大まかな流れだけ終えるように色々省いています。
マセラシオン・カルボニックとは。その効果 1「色素抽出」
「マセラシオン・カルボニック」は「炭酸ガス浸漬法」のことで、上記の工程でいうと2〜5に関わります。
ぶどうを房ごと発酵タンク内に入れ(除梗しない)、タンク内を炭酸ガスで満たし嫌気的状態にします。
すると酸素が遮断された状態の中でぶどうの「細胞内」で酵素による発酵が起こり、だんだん果皮が柔らかくなり、自然と潰れ、液体が染み出してきます。そうすると酵母と果汁(糖分)が接触し、今度は徐々に通常の発酵も起こる…という方法です。
この醸造方法に期待される効果は「色素抽出が早くできる」ことです。
ボジョレー・ヌーヴォーは知っている方も多いかと思います。フランスのボジョレー地区で造られるいわゆる新酒で、その年に収穫したぶどうを使って仕込まれるお祝いのお酒。
その年のぶどうの出来を占う意味もあり、収穫から醸造までふつうのワインでは考えられないくらいの短期間で仕込まれます。
そこで活躍するのがこの醸造方法。
果皮細胞の分解を起こすマセラシオン・カルボニックは短期間で色素抽出ができる=すぐ色がつくのです。
マセラシオン・カルボニックの効果 2「ライトな仕上がり」
マセラシオン・カルボニックの利点は早く色がつくことだけではありません。
先述の通り短期間醸造の方法です。
つまりぶどうの渋みなどが茎や皮、種からあまり映らない段階で圧搾されます。
同時にリンゴ酸の分解や、それとは別にマロラクティック発酵(リンゴ酸が乳酸に変わる)と呼ばれる発酵が同時に起こる結果、ワインの酸がまろやかになります。
結果的に「色はしっかり濃いのに、渋みがなく、酸も穏やかな」飲みやすいライトなワインが出来上がるというわけです。
マセラシオン・カルボニックの効果 3 「特有の香り」
また特殊な発酵過程を通して特有の香りも生成されます。
一番特徴として挙げられるのは「キャンディー香」。
低温発酵やマセラシオン・カルボニックのワインにはこの特徴的な香りがよく現れます。
ほんとにイチゴキャンディみたいな香りです。
また、「バナナ」の香りもこの醸造方法の特徴。
フルーティなワインは近年非常に人気で見かける機会が多いですが、華やかな香りの中にこうした要素を見つけたら、もしかしてこれはマセラシオン・カルボニックで造られたのでは?と想像してちょっと知ってる人間風の楽しみ方をしてみるのも良いかも知れません笑
セミマセラシオン・カルボニックとは
マセラシオン・カルボニックは人工的に炭酸ガスをタンク内に満たしますが、セミマセラシオン・カルボニックは全房ぶどうをタンク内に入れ下部のぶどうが潰れ通常の発酵が起こり、それによって生じた二酸化炭素でタンク内を満たすという方法です。
ガスの発生方法が違うだけで両者に大きな効果の差はないとされていますが、ナチュラルワインの造り手はこちらの方法を好む人も多い様子。
ちなみにぶどうをふさごとタンク内にいれる「全房発酵」はマセラシオン・カルボニックに限った話ではなく、様々な効果を期待して取り入れる生産者が多くいます。
マセラシオン・カルボニックを謳わずとも結果的に部分的にマセラシオン・カルボニックが起こる、ということもあり、それがワインの複雑さに寄与するというわけです。
これはまた別の機会に。
近年のワインとマセラシオン・カルボニック
近年ワインを取り巻く環境は変化しており、ワインを飲む人の嗜好も変わってきています。
特に温暖化と、アルコール離れ。
この2点は当然ながらワイン造りにも影響を与えています。
温暖化による影響
ワインは農作物。気候変動はワインの質に直結する話です。
良く言われるのは冷涼でぶどうの熟成が難しかった地域のぶどうの熟度に良い影響を与えているという話。
ワインベルトという言葉があり、北緯・南緯ともに30度〜50度内がワイン用ブドウ栽培に適していると言われるのですが、この緯度が上昇する可能性もあるかも知れません。
逆に元々温暖だった地域にとっては気温が上がりすぎて収穫時期を早めたりするなどの対応をしているところもあります。
熟度が上がることは好ましいことのように思ってしまうところですが、急激で短期間の温度上昇はぶどう生育に取りマイナスなことも多いのです。あくまでゆっくりと成熟することで適度な糖度と酸度のバランスが得られるとされています。
過度に熟して酸度を失ってしまったぶどうは野暮ったくでダレるような厚ぼったいだけのワインになってしまいます。
そこで注目されるのがマセラシオン・カルボニックです。
程よくライトでフレッシュなワインに仕上げてくれるこの醸造方法でぶどうの高すぎる熟度とのバランスを取る生産者が増えています。
嗜好の変化
ワイン離れ、アルコール離れは日本以外でも広がっています。
また、お酒を飲む人の好み自体も重厚でクラシカルなワインからフレッシュでライトなワインへと需要の以降が指摘されていて、そこに焦点を当てる作りをする生産者も当然多いわけです。
特にナチュラルワイン生産者にはこの手法を取る生産者も多く、温暖な地域とはまた違った理由で、しかし同じ効果を期待してマセラシオン・カルボニックを行っています。
個人的にも特有のフレッシュさや果汁感の喉越しは大好きです。暑い時期は特にこうした造りのナチュールは喉を潤すのに最適。おもすぎなくてスイスイ飲める軽やかさが素敵です。
これからのワイン
もともとは新酒を美味しく仕上げるための技術というイメージだったマセラシオン・カルボニックは、いま世界の様々なニーズに応える可能性のある醸造法としてより一般的になってきています。
また炭酸ガスではなく醸造中の果汁で嫌気的状態を作る「フロッタイソン」と呼ばれる新しい手法も登場したり、醸造技術は環境や文化の変化に伴ってこれからもどんどん進化していくでしょう。
ワインの香り一つからちょっとテクニカルな話になってしまいましたが、こうしてちょっと掘り下げることで、みなさんがワインを楽しむ切り口をひとつずつ増やたら良いなと思います。
まとまりが悪いのはいつもどおりなので、気にせず今回はここらへんで締めて、また次回…!
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