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ワインの香りについて①




ワインの香りについて①

ナチュラルワインのボトル5本
ワインの香りは様々

食事において香りが果たす役割は大きいものです。実際に料理を口にする前に、食欲をそそり期待感を高めてくれる重要な要素。


ワインにおいても同様で、ぶどうのみが原料とは思えないその香りの幅広さと奥深さは大きな魅力の一つです。

香りに限らずワインの感じ方は人それぞれですが、ワインを扱う仕事の人間が行うテイスティング作業においては感性にばかり頼ってもいられません。


あるワインの特徴について人と会話するとき香りの表現についてはさまざまな単語が使われますが、例えばソムリエやワインエキスパートの資格試験に必要とされる知識の中には表現のルールがあったりします。


飲食店の場合はそういった専門知識を持ったお客様ばかりではないので、ソムリエ独自の経験や感覚に基づいて噛み砕いてご説明しサーブすることが多いですが、その感性のバックボーンにある程度の根拠や論理性を持つことのメリットは大きいと感じます。時にワインの表現はポエミーになりがちです。


それは良い点ですが、行き過ぎた熱量だと相手(たいていお客様や、一緒に飲んでいる友人)との温度差が辛いこともたまにありますので…(汗)


共通の指針やルールを共有することは、お互いが具体的にそのワインに対する認識を共有する助けになるはずです。

というわけで今回からワインの香りについて、少し整理してみようと思います。


科学的な部分は多少曖昧です。ご容赦ください。


 

目次





 
ワインボトルとグラスに注いだワイン
ワインの香り

香りの正体=揮発性化合物



香りとは基本的に嗅覚器官がその元となる化合物をキャッチして感じるものです。

そしてその化合物とは揮発性の物質。ワインという液体そのものの香りというよりは、そこから立ち昇るガスみたいなものを吸っているイメージでしょうか。


ワインではその揮発性化合物のいくつかを重要な香り成分として捉えます。

ちなみに揮発性化合物には揮発のし易さみたいなものがあるそうで、分子の大きさによって変わるのだそう。


ワインを香るとき、立ち上ってくるその匂いに順序がある気がしたりするのはそのせいでしょうか…?


 
フルーツとナッツ
様々なものに例えられるワインの香り

香りの種類を大きく分類


ワインの香りについては科学的な研究がなされていて、実は意外と体系的に分類もされています。

まずその香り成分が何に端を発したものか、というカテゴリー分けです。


第一アロマ


ブドウ由来の香り成分のことを指します。

ワインは葡萄からできているのですからブドウ由来で当たり前なんですが、実はそうでない香りも。(後述)


前述の揮発性化合物の話ですが、この第一アロマには最初(ぶどうの時点で)から香りを発するものと、ブドウ果汁中に存在はしているが(前駆体=プレカーサーと呼ばれる)ワイン醸造の過程で揮発性化合物になり香りを発するものの2種があります。


ぶどうの時点で香るものはテルペン化合物、前駆体はチオール化合物が有名です。ただしテルペン化合物は前駆体として存在しているものもあるそうです。


ともあれ主要なものは以下の通り。


  • メルカプト・ヘキサノール

    と呼ばれる物質が有名で、世界的なブドウ品種のソーヴィニヨン・ブランや日本固有の品種である甲州に含まれる。

    「メルカプト・ヘキサノール」の香りはグレープフルーツやパッションフルーツの香りと表現されることが多いが、他の成分でもそうだが面白いのはその成分の濃度の違いで感じられる香りが大きく変わること。濃度が濃すぎると汗臭さや猫の尿の香りという表現に変わる。


  • リナロール

    マスカットや、ブドウ品種のリースリングに。


  • ゲラニオール

    ブドウ品種のゲヴェルツトラミネールに。


  • フラネオール

    ヴィティス・ラブルスカ種 (マスカット・ベーリーAにも)に。いちごの香り。


  • ロタンドン

    シラーなどに含まれる胡椒の香り。冷涼な気候で濃度が高まる→クールクライメート・シラーに特に多い。グリューナー・ヴェルトリーナーにも。


  • イソブチル・メトキシピラジン

    ピーマン香。ボルドーの赤ワイン用品種のカベルネ・フラン、カベルネ・ソーヴィニヨンなどの、特に果梗に多い。ぶどうの熟成とともに物質は減少し、知覚できないレベルまで減る。



第2アロマ


醸造由来で生成される香り。

醸造方法によって異なる香りが表れるので、ブラインドテイスティングではこの香りを頼りに醸造方法を逆算することもできます。(できる人もいます(汗))


主要なものは以下の通り。


  • エステル

    発酵過程において酵母の働きによって生じる。

    • 酢酸イソアミル

      バナナの香り。清酒の吟醸香。マセラシオン・カルボニックと呼ばれる醸造法によって生成されることも。

    • 酢酸エチル

      酢酸とエタノールから生じるエステル。高濃度では除光液、ペトロール香。低濃度ではメロンの香り。


  • 酢酸

    酢酸菌などの微生物がもつ酵素によりエタノールが酸化して生成される。微生物の量に比例するため、低温での保管・管理や密閉容器での貯蔵、亜硫酸の添加といった策がある。ワイン中の揮発酸で最も多い。お酢の匂い。ある程度の量は必ず含まれる。


  • フェノレ(ブレット)

    ブレタノミセスという酵母がぶどう中の成分を変換することで生じる香り。不快臭で良く挙げられる「馬小屋臭」いわゆる「ブレット」である。ただし少量ではクローブなどのスパイスの香りとしてある程度許容されることもある。2つのフェノール化合物が混ざったものが原因のため、そこからフランスではフェノレとも呼ばれる。

    野生酵母を使う発酵プロセスで混ざる不良バクテリア(培養酵母は発酵力が圧倒的に他の金より強いためブレタノマイセスが発生することは稀)。また、亜硫酸濃度が低いと増殖しやすい。

    要するにナチュールに多い。


  • マウジー、ネズミ臭(マメ臭)

    良く混同されるがブレットとは別物。乳酸菌、高温、酸が低いなどの条件下で発生するそう。

    また、科学的な部分は不明だが「酵母が元気だから」「酵母が暴れているから」とよく聞く。

    亜硫酸添加で防止できるが、それ故にナチュールワインに多い。

    本当に豆。コレが出ると悲しい気持ちになる。

    これはグラスに注いだ状態では揮発せず、口内に含んでから唾液と反応して発生する。


  • ダイアセチル

    マロラクティック発酵により作られる副生成物。ヨーグルトやチーズ、バターなどの乳製品の香り。ヘーゼルナッツの香り。

    濃いと台ふきん、汗臭、中年の脂臭のような不快臭。


自分の中で気になるものを書き出したら不快臭のほうが多くなってしまいました…。



第3アロマ


熟成由来の香り。熟成香。ブーケとも呼ばれる。

主に樽熟成、瓶熟成に分けられ、これが感じられればある程度熟成を経たワインの証。


  • ヴァニリン

    樽由来。バニラの香り。樽のトースト時、その熱により樽に含まれるリグニンが分解され生じる。トースト度合いによりワインに抽出される香りの成分は変わる。(軽いとワインが樽材に染み込みやすいので抽出大。重いと抽出小)

    フレンチオークに多い。


  • オークラクトン

    樽由来。ココナッツやバニラの香り。

    アメリカンオークに多い。つまりココナッツの香りがするか、バニラの香りがするかでどちらの樽か検討をつけることも可能。


  • ソトロン

    熟成中に生じるメイラード反応に関連する発生。

    アーモンドやヘーゼルナッツ、キャラメル、シナモン、メープルシロップなど。これも量によって感じる香りが変化する。濃いとカレー臭とも聞く。

    酸化熟成するタイプのワインに多い印象。特にシェリーやヴァン・ジョーヌ。また紹興酒の特徴的な香りもこれ。いわゆる「ひねた香り」、「ひね香」。



ソトロンなんかは個人的にもかなり好みの香りですが、かなり好みが分かれるところですね。この香りの好き嫌いについて人と話していると、極稀に変態と罵られブルーチーズの好き嫌いを話しているときと同じ疎外感を感じることができます。

また、成分の名前はちょっとわからないのですが生のマッシュルームの香りは瓶熟成の古酒白ワインの特徴的な香りと言われます。



今回はワインの香り成分について、主な揮発性化合物をまとめて列挙してみました。

私自身テイスティングの瞬間にアウトプットできるほどまだ知識として定着できてはいませんが、知っておくとより深く探れるのは間違いありません。


今後も香り成分やその他の情報をまとめていこうと思いますがひとまず区切ります。





みなさまもワインを楽しむ時に特徴的な香りだなと思ったら、その原因を調べてみるのも面白いのではないでしょうか?

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